心に咲く花 76回 月桂樹

月桂樹を ていねいに剪(き)る
夫(つま)の手を
赤き夕陽がぬくめつつある  ― 細野悦子

【現代訳】
月桂樹の葉を丁寧に剪定している夫。その手を真っ赤な夕陽があたためてくれている。

心に咲く花 2024年76回 月桂樹


古代ギリシャやローマの時代から太陽神「アポロン」の聖樹として知られる月桂樹。この月桂樹の小枝でつくった冠は、古来、勝者や優れた詩人を讃えるために贈られてきました。
同じ古代ギリシャからのものでも、オリンピックのメダリストに贈られるのが「オリーブの冠」で、音楽や詩など芸術分野で技量のすばらしかった人たちに与えられたのが「月桂冠」でした。これは、アポロンの聖樹が月桂樹だったため、芸術面を守護するアポロンにちなんで、贈られることになったと語り継がれています。

月桂樹の花言葉は「勝利」「栄光」「栄誉」などが知られます。かつて、大詩人に贈られ、月桂冠を得た詩人は「桂冠詩人」として賞賛されました。近代以降もイギリスを代表するロマン派詩人ウィリアム・ワーズワースらが「桂冠詩人」と呼ばれてきました。

クスノキ科の常緑高木である月桂樹。現在では香辛料として用いられる葉が世界的に名高く、洋の東西を問わず、カレーやシチュー、ロールキャベツ、ポトフ、スープなどの風味づけに活用されています。料理でローリエと呼ばれる葉が、この月桂樹です。

花は四月から五月頃、小さな黄色い花が咲きます。短い花柄を出し、群れをなすように柔らかい乳白色が混ざった、淡い黄色の花を咲かせる月桂樹。日本では日比谷公園をはじめ、公園樹としても親しまれてきました。

入浴剤に加えれば、冷え性対策や疲労回復にも薬効があると注目される月桂樹。香りには情緒を落ちつかせる効果があるのでは、と研究する専門家もいます。さらに防虫・防腐効果もあり、米びつなどの食品の虫除けにも、衣類の虫除けにも、使われています。

古代ギリシャ時代から、多くの人に愛されてきた月桂樹。学名には、「高貴」「気品がある」という意味の「ノビリス」という名が付けられています。


田中章義(たなか あきよし)さん

歌人・作家。静岡市生まれ。大学在学中に「キャラメル」で第36回角川短歌賞を受賞。2001年、国連WAFUNIF親善大使に就任。國學院大學「和歌講座」講師、ふじのくに地球環境史ミュージアム客員教授も務める。『世界で1000年生きている言葉』(PHP文庫)の他、歌集『天地(あめつち)のたから』(角川学芸出版)、『野口英世の母シカ』(白水社)など著書多数。

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