除夜の灯(ひ)の仄(ほの)かに及ぶ
花舗(かほ)の隅に
凍(い)てつつ開く雪割草の花 ― 山崎孝子
【現代訳】
除夜のあかりのほのかに灯る花屋の隅で、凍(こご)えながらも花を咲かせる可憐な雪割草よ。
心に咲く花 2024年72回 雪割草
新春を告げる花のひとつとして、古来、お正月飾りの花にも人気のある雪割草。福寿草とともに縁起のいい花と語られてきました。
「雪割草」の名のとおり、雪に埋もれた地面からも、健気に顔をのぞかせ、花も咲かせる姿は、時代を超えて、多くの人々の心を動かしました。「大地からのエール」なのかもしれません。
花言葉には「忍耐」「はにかみや」「期待」「信頼」などがあるそうです。根雪のある地域でも、じっと耐え、春を待つ姿に古来、どれほどの人たちが励まされたことでしょう。
「雪割草けなげな力受け止めて凍(こご)える風も痛き言葉も」(大原鶴美)、「培(つちか)へる雪割草を運び来し少女と小さき花に頬寄す」(初井しづ枝)など、これまで多くの歌人が雪割草を詠んできました。
「花日記雪割草に始(はじま)りし」(秋葉美流子)、「雪割草古き落ち葉のかげに咲く」(山口青邨)、「ふるさとや雪割草のかすかなる」(古澤千枝子)、「よきことはいつか来るもの雪割草」(鈴木伊都子)など、たくさんの雪割草の俳句も存在します。
小さいながらも確かな生命力で早春の大地を彩る雪割草。世界じゅうにたくさんの種類があり、各地で親しまれています。
掲出歌は、年の瀬も押し迫った除夜の頃の花屋を詠んだ作品です。「除夜」とは、「大晦日」と呼ばれる、漢字文化圏の一年最後の日です。一年の終わりの花屋の「隅」というところが、いかにも健気な雪割草らしいと言えるでしょう。
どんなに凍える寒さでも、やがて春が来ることを信じ抜くように、花を咲かせる力強さが雪割草の特色です。冬来たりなば春遠からじ。受験生にもぜひ見つけて欲しい雪割草は、いつの時代にも新年を寿ぐ「希望」の花なのかもしれません。
田中章義(たなか あきよし)さん
歌人・作家。静岡市生まれ。大学在学中に「キャラメル」で第36回角川短歌賞を受賞。2001年、国連WAFUNIF親善大使に就任。國學院大學「和歌講座」講師、ふじのくに地球環境史ミュージアム客員教授も務める。『世界で1000年生きている言葉』(PHP文庫)の他、歌集『天地(あめつち)のたから』(角川学芸出版)、『野口英世の母シカ』(白水社)など著書多数。
★こちらの記事もご覧ください★
【BOSCOトーク】対談 赤塚耕一×田中章義さん