心に咲く花 70回 コキア

秋晴れの
コキアの丘にひとり立ち
太平洋を独り占めする  ― 鈴木政明

【現代訳】
秋晴れの日、コキアの紅葉する丘に一人で立っていると、まるで太平洋を独り占めしているような気持ちになるなあ。

心に咲く花 2023年70回 コキア


近年、コキアが植えられている公園が各地で人気だそうです。たまたま見たテレビ番組では、茨城県の「国営ひたち海浜公園」の真っ赤に紅葉するコキアが、青空に映えている様子が紹介されていました。美しく、鮮やかで、まるでスタジオジブリの「トトロ」の親戚のような、愛嬌のある姿が観光客を笑顔にしてくれていました。

別名「箒草(ほうきそう)」とも、「箒木(ほうきぎ・ははきぎ)」とも称されるコキア。
ほのぼのとした球状が魅力的で、北海道由仁町でも、3万株を超える圧巻のコキアが見られるところがあるそうです。

『源氏物語』で、主人公の光源氏が「箒木」の和歌を詠んでいることを御存知でしょうか。
「箒木の心をしらでその原の道にあやなくまどひぬるかな」――これは、遠くからは見えるのに、近寄ったら見えなくなる、という長野県の園原伏屋にある「箒木」の伝承を踏まえ、主人公光源氏が、思いを寄せる空蝉のつれない心をたとえて詠んだ一首です。「箒木のように近寄ったら消えてしまうあなたの心を知らずに、園原の道に迷ってしまったのでしょうか」という歌意の作品です。

平安時代には、すでに存在が知られていた「箒木」。実は食用となり、「畑のキャビア」と呼ばれる秋田名産の「とんぶり」は、これが原料です。

俳人の能村登四郎(のむらとしろう)さんの句に、「月明に我立つ他は箒草」という作品もあり、掲出歌の「コキアの丘」に立って、太平洋を独占する感覚とも似た光景が詠まれています。

「コキア」という語にどこか親しみを感じるなと思ったのですが、実は娘の名「あきこ」を逆に読んだものだと気づきました。与謝野晶子・馬場あき子など、近現代の女流歌人には「あきこ」という名を持つ人が何名もいます。

花言葉は、「夫婦円満」。あの、幸せそうな球体によく似合う花言葉だなあと実感する秋晴れの一日です。


田中章義(たなか あきよし)さん

歌人・作家。静岡市生まれ。大学在学中に「キャラメル」で第36回角川短歌賞を受賞。2001年、国連WAFUNIF親善大使に就任。國學院大學「和歌講座」講師、ふじのくに地球環境史ミュージアム客員教授も務める。『世界で1000年生きている言葉』(PHP文庫)の他、歌集『天地(あめつち)のたから』(角川学芸出版)、『野口英世の母シカ』(白水社)など著書多数。

★こちらの記事もご覧ください★
【BOSCOトーク】対談 赤塚耕一×田中章義さん