くきやかに伸びつついまはわが丈を
ゆたかにこえて鶏頭咲けり ― 若山牧水(わかやまぼくすい)
【現代訳】
くっきりと伸び、今は、我が背丈をすっかり超えて鶏頭の花が咲いている。
心に咲く花 2023年68回 鶏頭(ケイトウ)
とても暑かった猛暑の中でも色鮮やかに花を咲かせる鶏頭。暑さにつよく、アジア・アフリカなどの熱帯から亜熱帯まで、いろいろな種類の花が知られています。
『万葉集』の「韓藍(からあい)」は、実はこの鶏頭の古名だと言われています。江戸時代の俳人 与謝蕪村(よさぶそん)に、「秋風の吹きのこしてや鶏頭花」という句があるなど、さまざまな時代の日本人の感性を刺激してくれた花でした。
与謝野晶子(よさのあきこ)には、「鶏頭は憤怒の王に似たれども池にうつして自らを愛づ」という一首もあります。ギリシャ語で「燃焼」という意味の学名を持つ鶏頭は、なるほど「憤怒の王」という比喩も頷ける色鮮やかな花です。たしかに「池にうつして自らを愛づ」という姿も似合うのかもしれません。
正岡子規(まさおかしき)も斎藤茂吉(さいとうもきち)も北原白秋(きたはらはくしゅう)も詠んだ、鶏頭の花。掲出歌の若山牧水が、「くきやかに伸びつついまはわが丈をゆたかにこえて鶏頭咲けり」と、背丈を超えた鶏頭花を詠んだのに対し、斎藤茂吉は、次のように背丈の低い鶏頭花の歌を詠んでいます。
「丈ひくく鶏頭の花咲き初めて一本ならぬ親しさもあり」。
高さを詠んだ作者も、低さを詠んだ作者も、それぞれに鶏頭花への愛情が感じられる一首です。
とても個性的な風貌で、多くの表現者を魅了し続けてきた鶏頭の花。夏から秋まで、花の時期が長い花としても知られています。一般的には秋の赤い花が古来、親しまれていますが、最近はオレンジ色やピンク、むらさき色など、さまざまな色彩のものもあり、人々を愉しませてくれています。「おしゃれ」「個性」などの花言葉を持つというのも頷けるのではないでしょうか。
近年は、ドライフラワーとしても人気の鶏頭。ドライフラワーになっても色彩を保つことから、「色褪せぬ恋」という花言葉もあるのだそうです。
田中章義(たなか あきよし)さん
歌人・作家。静岡市生まれ。大学在学中に「キャラメル」で第36回角川短歌賞を受賞。2001年、国連WAFUNIF親善大使に就任。國學院大學「和歌講座」講師、ふじのくに地球環境史ミュージアム客員教授も務める。『世界で1000年生きている言葉』(PHP文庫)の他、歌集『天地(あめつち)のたから』(角川学芸出版)、『野口英世の母シカ』(白水社)など著書多数。
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