心に咲く花 64回 ジャカランダ

幾年(いくとせ)も共に仰ぎしジャカランダ
ことし吹雪てわれを被いぬ  ― 冷順子

【現代訳】
何年もともに過ごし、ずっと一緒に仰いできたジャカランダが今年も咲いている。今年は一人で見上げるジャカランダ。その花吹雪が励ますように私を被ってくれている。

心に咲く花 2023年64回 ジャカランダ


西アフリカ原産のカエンボク(火焔木)、マダガスカル原産のホウオウボク(鳳凰木)とともに、「世界三大花木」のひとつに数えられるジャカランダ。

掲出歌は2009年に発表された第十二回「あなたを想う恋の歌」(福井県越前市主催)入選歌の一首です。作者はアメリカ合衆国からこの作品を送っていました。

「南半球の桜」とも称されるジャカランダは、地球各地で開花を心待ちにしている人たちが多い、南米原産の落葉高木です。30メートルの高さにもなるジャカランダ。青紫の花が咲き誇る姿は圧巻で、見上げる多くの人たちを包み込むような迫力と存在感のある姿に感動する人も多いのではないでしょうか。

作者はご主人と毎年、ジャカランダの花を仰ぎ観ていたのでしょう。何年も一緒に見上げてきた樹木を今年は一人で見るさみしさ。けれども、ジャカランダはそんな作者の心を見抜くように、すばらしい花吹雪で被ってくれたのです。誰かに抱(いだ)かれるような優しさと安心感を作者は得たのかもしれません。

日本では5月から6月頃にかけて開花する地域が多く、静岡県熱海市・長崎県雲仙市・宮崎県日南市などに名高いジャカランダがあります。

花はもちろん、羽のような形状の葉は観葉植物としても注目されています。南アフリカやオーストラリアなどでは街路樹として植えられている地域もあります。花言葉の「名誉」「栄光」というのも、風格あるジャカランダによく似合うのではないでしょうか。
今日(こんにち)では数十種類もの品種もあると言われるジャカランダ。山崎豊子さんの代表作『沈まぬ太陽』には何ヵ所もジャカランダが描かれています。異国の地で見上げる満開のジャカランダは見る人の心はもちろん、その人の人生さえも彩ってくれる花なのかもしれません。


田中章義(たなか あきよし)さん

歌人・作家。静岡市生まれ。大学在学中に「キャラメル」で第36回角川短歌賞を受賞。2001年、国連WAFUNIF親善大使に就任。國學院大學「和歌講座」講師、ふじのくに地球環境史ミュージアム客員教授も務める。『世界で1000年生きている言葉』(PHP文庫)の他、歌集『天地(あめつち)のたから』(角川学芸出版)、『野口英世の母シカ』(白水社)など著書多数。

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