心に咲く花 55回 日日草(にちにちそう)

集い来て
よく笑いたる子らなりき
ニチニチソウが咲けば想えり  ― 鳥海昭子(とりのうみあきこ)

【現代訳】
集まって来て、よく笑う可愛い子どもたちだったなあ。夏の日差しの中で、日日草が元気に咲いているのを見れば、ふと想い出すのは。

心に咲く花 2022年55回 日日草(にちにちそう)


マダガスカル原産の「日日草」は、夏の暑さや乾燥に強いことから、夏の花壇には欠かせない存在です。暑さに強いばかりか、花の時期が初夏から晩秋までと長いため、全国各地の花壇で重宝されています。

毎日絶えることなく、次々と花が咲いてくれることから「日日草」の名が付いたと言われるそうです。寄り集まって楽しそうに咲く姿を見て、作者は「集い来てよく笑いたる子ら」を思い出したのでしょう。

白い日日草の花言葉は「生涯の友情」、桃色の日日草の花言葉は「優しい追憶」なのだそうです。さらに、日日草全体で「楽しい思い出」という花言葉もあると聞いて、私は掲出歌にぴったりだなと思いました。

1929年に山形県鳥海山の麓に生まれた鳥海昭子さん。2005年に亡くなるまでにさまざまな花の短歌を詠んだ鳥海さんは、児童養護施設の子どもたちのために26年間勤務し続けた人でした。自ら学費を稼ぎ、苦労して学校を出た鳥海さんは、野に咲く花の優しさや逞しさに人一倍敏感だったのかもしれません。

掲出歌に詠まれた子どもたちも児童養護施設の子どもたちだったのでしょう。生まれた境遇はさまざまでも、縁あって出会えた場所で集い合い、よく笑っていた子どもたち。そんな子どもたちを見守る鳥海さんが、日日草を見守るおひさまのような存在だったのかもしれません。

夏の暑さにもめげず、元気に花を咲かせる日日草を見るたび、掲出歌と子どもたちの笑顔を思い出します。日日草も子どもたちの笑顔も国内外で豊かに咲くような、すばらしい夏でありますように。


田中章義(たなか あきよし)さん

歌人・作家。静岡市生まれ。大学在学中に「キャラメル」で第36回角川短歌賞を受賞。2001年、国連WAFUNIF親善大使に就任。國學院大學「和歌講座」講師、ふじのくに地球環境史ミュージアム客員教授も務める。『世界で1000年生きている言葉』(PHP文庫)の他、歌集『天地(あめつち)のたから』(角川学芸出版)、『野口英世の母シカ』(白水社)など著書多数。

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