冷え冷えと
霙(みぞれ)が洗ふ 戸の外の
明るさ占めて 葉牡丹はあり ― 木俣修(きまたおさむ)
【現代訳】
冷え冷えと霙(みぞれ)が降るような寒い戸の外でも葉牡丹は鮮やかに色づいている。花かと見違えるほどに明るく庭を彩って・・・。
心に咲く花 2022年48回 葉牡丹(ハボタン)
アブラナ科アブラナ属の多年草の葉牡丹。
冬枯れの時期に、まるで花かと思うほどに鮮やかに大地を彩る姿に励まされる人も多いのではないでしょうか。幾重にも巻いた色鮮やかな葉を「牡丹」の花に見立てた先人のまなざしのあたたかさを思います。
作者は1906年(明治39年)に滋賀県で生まれた歌人です。彦根藩城代家老 木俣氏の末裔と言われる家柄に生まれ育ち、1959年(昭和34年)年からは歌会始の撰者も務め、宮内庁御用掛として昭和天皇の和歌の指南役も託されました。
昭和天皇、さらには平成の天皇の和歌の指南役として知られ、國學院大學で教鞭をとった岡野弘彦(おかのひろひこ)さんにも、「日毎来て 磯ひよどりの ついばみし 葉ぼたんは茎 長く抽きたり」という葉牡丹の歌があります。
夏に種を蒔き、寒くなるとともに色づいてゆく葉を冬から春にかけ楽しむことのできる葉牡丹。「スノードレス」(雪のドレス)、「紅くじゃく」「珊瑚」「かんざし」「晴姿」など、さまざまな品種があり、どれも葉牡丹らしい明るく優雅な雰囲気をたたえています。
寒さで霜が降りるような時期にも庭や花壇に彩りを添えてくれる葉牡丹を門松の添えものとして利用する地域もあります。
冬の季語の「葉牡丹」。「葉牡丹や わが想ふ顔 みな笑まふ」(石田波郷:いしだはきょう)という句もあり、冬の陽射しを浴びつつ輝く姿は、なるほど誰かの笑顔を連想させる植物なのかもしれません。「葉牡丹の 下にいつもの 隠し鍵」(鷹羽狩行:たかはしゅぎょう)という句もあり、確かに【大事なもの】をそっと護(まも)ってくれているようにも感じられます。
冬枯れの季節にも「明るさ」を失わない葉牡丹。花言葉は「記憶に残る思い」だそうです。
ヨーロッパを原産とする葉牡丹は、現在では世界じゅうで育てられ、今日も各国の人たちの心を潤してくれる植物です。
田中章義(たなか あきよし)さん
歌人・作家。静岡市生まれ。大学在学中に「キャラメル」で第36回角川短歌賞を受賞。2001年、国連WAFUNIF親善大使に就任。國學院大學「和歌講座」講師、ふじのくに地球環境史ミュージアム客員教授も務める。『世界で1000年生きている言葉』(PHP文庫)の他、歌集『天地(あめつち)のたから』(角川学芸出版)、『野口英世の母シカ』(白水社)など著書多数。
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