花水木の 道があれより 長くても
短くても 愛を告げられなかった ― 吉川宏志
【現代訳】
花水木の植えられている道があの長さよりも長かったとしても、短かったとしても、この思いをあのタイミングで伝えることはできなかった。
心に咲く花 2021年39回 花水木(ハナミズキ)
北アメリカ原産で、庭木や街路樹にも好まれる花水木。明治四十五年、当時東京市長だった尾崎行雄がアメリカ合衆国に桜を贈った返礼として、大正四年にアメリカ合衆国から贈られたのが花水木でした。
四月頃に白色や薄紅色の花を咲かせる花水木は、現在では長崎県佐世保市、東京都武蔵野市、愛知県一宮市、三重県桑名市、静岡県静岡市などの市の木とされ、徳島県小松島市では市の花にも認定されるなど、日本人になじみの深い樹木となっています。東京都港区や神戸市長田区、川崎市多摩区など、区の木にしているところも少なくありません。
先日、一青窈(ひととよう)さんが歌う「ハナミズキ」を聞く機会があり、あらためて花水木に目がいくようになりました。まぶしい春の陽射しを浴びて、青空に映える花水木。「君と好きな人が百年続きますように」という歌詞が力強く花を咲かせる花水木とよく合っています。
日本の多くの桜のように、葉が出る前に花が咲く花水木。幸せをもたらす花なのでしょう。そんな瑞々しい花水木に激励されるかのようにプロポーズできたのが掲出歌です。一青窈さんの曲がヒットする十年ほど前に刊行された作者の第一歌集『青蝉』の中の作品でした。
俳人の石田波郷(いしだはきょう)も、「鳩を見て をれば妻来て 花水木」というほのぼのとした句を詠んでいます。人々も祝福するように優しくあたたかく花を咲かせる花水木。この樹木を「みちのくのたのしい友」だと詠んだ俳人もいれば、「よろこび色に咲く花」だと讃えた俳人もいました。一青窈さんの「ハナミズキ」は、桑田佳祐さんや中森明菜さん、徳永英明さん、森山良子さん、岩崎良美さんなど、世代を超えたさまざまな歌手にもカヴァーされ、歌い継がれています。百年後も二百年後も、世界じゅうの人たちの幸せを見護り続けてほしい樹木です。
田中章義(たなか あきよし)さん
歌人・作家。静岡市生まれ。大学在学中に「キャラメル」で第36回角川短歌賞を受賞。2001年、国連WAFUNIF親善大使に就任。國學院大學「和歌講座」講師、ふじのくに地球環境史ミュージアム客員教授も務める。『世界で1000年生きている言葉』(PHP文庫)の他、歌集『天地(あめつち)のたから』(角川学芸出版)、『野口英世の母シカ』(白水社)など著書多数。
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