二十四節気七十二候 冬
二十四節気七十二候 “冬” 第五十五候から第七十二候を解説する。
立冬【りっとう】
暦の上での冬の始まり。冬の訪れを告げる「木枯らし一号」もこの頃。北風が身にしみる時期。
● 第五十五候 山茶始開【つばきはじめてひらく】
[十一月八日~十二日頃]
サザンカが咲き始める頃のこと。読みは「つばき」だがこの候ではサザンカを指す。この時期から真冬にかけて、ミカンが旬。“こたつでミカン”は、日本の冬の風物詩のひとつだ。
●第五十六候 地始凍【ちはじめてこおる】
[十一月十三日~十七日頃]
寒さが強まって大地が凍り始める頃のこと。冬が本格化してくる。十一月十五日の七五三はこの時期。数えで男子は三歳と五歳、女子は三歳と七歳のときに健やかな成長を祝って神社に詣でる。味覚では、歯ごたえのいいレンコンが旬。ビタミンCや食物繊維が豊富で、「先を見通す」穴は縁起がいいとされている。
●第五十七候 金盞香【きんせんかさく】
[十一月十八日~二十二日頃]
この「金盞」はキク科のキンセンカではなくスイセンのこと。スイセンの花が咲き、上品な香りが漂う頃のこと。「金盞」は「黄金の杯」で黄色い副花冠をもつスイセンの別名とも。
小雪【しょうせつ】
北国からは雪の便りが届き始める。全国的に寒さが厳しさを増し、街も人も一気に冬支度へ。
● 第五十八候 虹蔵不見【にじかくれてみえず】
[十一月二十三日~二十七日頃]
曇り空が多くなって虹を見る機会が少なくなる頃のこと。日差しが弱まり、どんより重たい冬の空模様が続く。毎年十一月二十三日には伊勢神宮をはじめ全国各地の神社で、秋の収穫を神々に感謝する「新嘗祭」が行われる。戦後、「国民の祝日に関する法律」によってこの新嘗祭の名称を変えたものが現在の勤労感謝の日。
●第五十九候 朔風払葉【きたかぜこのはをはらう】
[十一月二十八~十二月一日頃]
冷たい北風が木の葉を舞い落とす頃のこと。この季節はカニが旬。鍋ならタラバガニ、カニしゃぶならズワイガニ、毛ガニは食後に甲羅酒と、冬の味覚を種類ごとに味わえる。
●六十候 橘始黄【たちばなはじめてきばむ】
[十二月二日~六日頃]
タチバナの実が色づく頃のこと。タチバナは古来から日本に野生する柑橘類のひとつ。酸味が強いため生食には向かない。常緑樹のため、永遠を表す縁起のいい植物とされ、家紋や勲章のデザインに用いられることも。また『日本書紀』や『万葉集』などに、永遠に香る果実「非時香果」として登場している。
大雪【たいせつ】
山だけでなく平野部や街中にも雪が降り始める頃。クマが冬眠に入るのもこの頃といわれる。
● 第六十一候 閉塞成冬【そらさむくふゆとなる】
[十二月七日~十一日頃]
重く垂れ込めた雲に天地の気が塞がれて、深閑とした真冬がやってくる頃のこと。中国の暦ではこの時期を、山鳥も鳴かなくなる時節という意味で「鶡鳥不鳴」と呼ぶ。
● 第六十二候 熊蟄穴【くまあなにこもる】
[十二月十二日~十六日頃]
クマが冬ごもりのために穴に入る頃のこと。クマはほんの小さな音でも目を覚ますほど眠りが浅い。山でクマが冬眠するこの時期、海ではキンメダイやブリ、カキなどが旬を迎える。なかでも鮮やかな紅色の体に金色に輝く目を持つキンメダイは、見た目に美しく、刺身や煮付けなどで食す美味な冬のごちそうだ。
● 第六十三候 鱖魚群【さけのうおむらがる】
[十二月十七日~二十一日頃]
川で生まれ海で育ったサケが、産卵のために生まれた川に群れをなして戻ってくる頃のこと。海に出てから再び川に戻るまで三~四年ほどかかるが、水のにおいを記憶しているために生まれた川に戻ってこれるのだという。サケが川を遡ることを「サケの遡上」といい、北海道など北国の冬の風物詩になっている。
冬至【とうじ】
一年間で夜がもっとも長く、昼がもっとも短い日。中国の易経では冬至のことを「一陽来復」ともいう。
● 第六十四候 乃東生【なつかれくさしょうず】
[十二月二十二日~二十六日頃]
「乃東」とは、漢方薬にも使われるウツボグサのことで、冬至の頃に芽が出て、夏至の頃には枯れてしまうため「夏枯草」とも呼ばれる。そのウツボグサの芽が出てくる頃のこと。
● 第六十五候 麋角解【さわしかのつのおつる】
[十二月二十七日~三十一日頃]
「麋」は大型のシカの一種。オスの角が一年に一度、根元から抜けて生え変わる頃のこと。冬至といえば江戸時代から行われている「ユズ湯」。ユズには血行促進や冷え性の緩和などの効果があり、「ユズ湯に入ると風邪をひかない」といわれる。また独特の酸味と香りは、鍋や焼き魚など和食の引き立て役にも重宝される。
●第六十六候 雪下出麦【ゆきわたりてむぎいずる】
[一月一日~五日頃]
雪に覆われた麦畑の下で、麦が芽を出す頃のこと。この時期、正月のおせち料理に欠かせないのがクワイの煮物。「大きな芽が出る=めでたい」という縁起物の食材とされている。
小寒【しょうかん】
寒さが厳しく、冬本番となる「寒の入り」の頃のこと。小寒から節分までを「寒の内」という。
● 第六十七候 芹乃栄【せりすなわちさかう】
[一月六日~十日頃]
セリが競り合うようにすくすくと育ち始める頃のこと。「せり なずな ごぎょう はこべら ほとけのざ すずな すずしろ これぞ七草」の「春の七草」もこの時期。一月七日は「人日の節句」と呼ばれ、この日の朝に春の七草が入った「七草粥」を食べて一年の無病息災を願うという習慣が古くから今も続いている。
●第六十八候 水泉動【しみずあたたかをふくむ】
[一月十一日~十五日頃]
地中で凍っていた泉が解けて動き始める頃のこと。この時期に旬なのがアンコウ。「捨てるところがない」といわれ、鍋によし、アンキモは肴によしと、寒い冬を楽しませてくれる。
●第六十九候 雉始雊【きじはじめてなく】
[一月十六日~二十日頃]
オスのキジが鳴き始める頃のこと。「ケーン、ケーン」と鳴くのはメスへの求愛行動だ。鳴いた後は羽根を「ほろほろ」と振るわせる。これが「けんもほろろ」の語源になっている。
大寒【だいかん】
寒さがもっとも厳しい頃で、寒の内の真ん中にあたる。まさに冬将軍の面目躍如といった時期。
● 第七十候 款冬華【ふきのはなさく】
[一月二十一日~二十四日頃]
黄色いフキの花が咲き始める頃のこと。フキの茎の部分がフキノトウ。芳しい香りとほろ苦い味わい、シャッキリした歯ごたえが、春の訪れを感じさせる季節感あふれる食材だ。
●第七十一候 水沢腹堅【さわみずこおりつめる】
[一月二十五日~二十九日頃]
厳しい寒さで沢を流れる水に厚く氷が張りつめる頃のこと。年間でもっとも寒い時期となる。この時期の鍋料理に欠かせない名脇役がシュンギクだ。通年で手に入るが十一月から二月にかけてが旬で、茎や葉が柔らかく香りも高い。カロチンやミネラルが豊富で、栄養価は主役級だ。鍋のほか、おひたしや天ぷらも美味。
●第七十二候 鷄始乳【にわとりはじめてとやにつく】
[一月三十日~二月三日頃]
春の訪れを感じたニワトリが卵を産むために小屋にこもる頃のこと。「とや」は「鳥屋、鳥小屋」、「乳」は「卵を産む」という意味。年中出回っている鶏卵だが、本来、ニワトリが卵を産むのはこの時期なのだとか。七十二候最後の候は、立春前の節分の時期。冬の寒さが峠を越えて、春が近いことを予感させる。
※本特集の七十二候は、原則として『略本暦』の漢字表記を基にしながら、旧字体は新字体に置き替え、読み方は現代仮名遣いで表記しています。
2014年1月発刊『BOSCO 5号』掲載 特集
取材・文/柳沢敬法、イラスト/南景太