暦で感じる、美しき日本の四季「二十四節気・七十二候」を知る Part 2.

二十四節気七十二候 春

二十四節気七十二候 “春” 第一候から第十八候を解説する。

立春【りっしゅん】

旧暦で春の始まり、一年の始まりでもある。八十八夜や二百十日などは立春が起点となる。

● 第一候 東風解凍【こちこおりをとく】
[二月四日~八日頃]
暖かい春の風が吹いて、冬の間、川や池などに張りつめた氷が少しずつ解け始めていく頃のこと。春の訪れを表した候だ。東風は「とうふう」「はるかぜ」と読ませる場合も。立春後、最初に吹く強い「南風」が「春一番」。この時期、旬の味覚といえばフキノトウ、魚ならばシラウオやニシン、イワナなど。

●第二候 黄鶯晛脘【うぐいすなく】
[二月九日~二月十三日頃]
「春告鳥」とも呼ばれる春を代表する鳥、ウグイス。おなじみの「ホーホケキョ」という高らかで美しいさえずりが響き始める頃のこと。その年最初のウグイスの鳴き声を「初音」と呼ぶ。昔から「梅に鶯」は春の代名詞。季節の花をデザインした花札にも、二月の札にはこのモチーフが使われている。

●第三候 魚上氷【うおこおりをいずる】
[二月十四日~十八日頃]
暖かい陽気に川や湖、池の氷が解けて割れ、氷の下に潜んでいた魚たちが飛び出してくる頃のこと。川魚も生き生きと動き始めるこの頃に、各地で渓流釣りが解禁となる。

雨水【うすい】

春の陽気に雪が雨に変わり、氷が解けて水になる頃。農耕を始める時期の目安とされてきた。

● 第四候  土脉潤起【つちのしょううるおいおこる】
[二月十九日~二十三日頃]
冷たい雪に覆われ凍てついた大地に、暖かい春の雨が潤いを与える頃のこと。土中の虫たちも目覚め始める時期。見てよし、食べてよしの菜の花が美しく咲くのもこの頃。

●第五候  霞始靆【かすみはじめてたなびく】
[二月二十四日~二十八日頃]
霞とは遠くの山々の景色がぼやけて見える様子。その霞がたなびいて横に広く漂って見える頃のこと。霞と霧は基本的には同じものだが、春は「たなびく霞」、秋は「立ち上る霧」と、季節によって呼び分けられる。また夜の霞は「朧」と呼ぶ。幻想的な自然現象が、早春の風景を趣深く演出してくれる。

●第六候  草木萌動【そうもくめばえいずる】
[三月一日~四日頃]
土の中や枝から草木が芽吹き出す頃のこと。冬の寒さに耐えてきた新しい命が一斉に芽生え始める。ひな祭りや婚礼などお祝い事に欠かせないハマグリはこの時期が旬。

啓蟄【けいちつ】

地面が温かくなり、土中で冬眠していた虫(蟄)たちが目覚めて(啓く)動き始める頃。

● 第七候  蟄虫啓戸【すごもりむしとをひらく】
[三月五日~九日頃]
土中で冬ごもりしていた虫たちが、暖かい春の日差しの中で活動を始める頃のこと。優雅な女性を象徴するランの花。春に花開くラン=春蘭が咲くのはこの時期だ。旬の食材にはワラビやゼンマイなどの山菜がある。あくの強い春の山菜は体内の毒素を排出するといわれ、「春には苦みを盛れ」という格言もある。

●第八候  桃始笑【ももはじめてさく】
[三月十日~十四日頃]
桃の花が咲き始める頃。昔は「咲く」を「笑う」と表現したそう。桃の節句のひな祭りも、本来はこの時期に行われていたという。現在でもこの頃にひな祭りを祝う地域がある。

●第九候  菜虫化蝶【なむしちょうとなる】
[三月十五日~十九日頃]
「菜虫」とはダイコンなどの葉につく青虫。この場合はモンシロチョウの幼虫などがそれにあたり、春の訪れによって青虫が美しいチョウへと姿を変える頃のこと。この時期の旬のひとつが刺身や寿司、そして蕎麦の薬味などに欠かせないワサビ。ツンとくる辛味があり、消化促進や消毒の効果があるといわれている。

春分【しゅんぶん】

昼と夜が同じ長さに。その前後が春の彼岸。「暑さ寒さも彼岸まで」で、寒さも峠を越える。

● 第十候  雀始巣【すずめはじめてすくう】
[三月二十日~二十四日頃]
スズメが巣を作り始める頃のこと。春はスズメの繁殖期にあたる。「チュンチュン」という鳴き声が印象的で日本人にとって身近な鳥だが、近年はその生息数も減少し、見かける機会も少なくなった。またその小さい体ゆえに、他の鳥の大きさを比較する際の基準とされることが多く、「ものさし鳥」とも呼ばれている。

●第十一候  桜始開【さくらはじめてひらく】
[三月二十五日~二十九日頃]
桜の花が咲く頃のこと。各地から開花宣言のニュースが聞こえてきて、春も本番に。日本人は昔から桜が大好きで、桜を愛でて酒を酌み交わすお花見は日本独特の風習だ。

●第十二候  雷乃発声【かみなりすなわちこえをはっす】
[三月三十日~四月三日頃]
春になって、恵みの雨を呼ぶ雷が鳴り始める頃のこと。この時期の旬の野菜が新タマネギ。甘みがあって水分が豊富で生食向き。アスパラガスも早いものはこの頃から収穫が始まる。

清明【せいめい】

万物が清らかな様子を意味する「清浄明潔」の略。春の花々が咲き誇り陽気も爽やかな頃。

● 第十三候  玄鳥至【つばめきたる】
[四月四日~八日頃]
冬の間を東方で過ごしたツバメが、海を渡って日本に飛来する頃のこと。ツバメは人家の軒下などに泥や枯草を固めて巣を作る。人間が住む場所に巣作りするのはカラスやネコなどの外敵から身を守るためだとか。ツバメのエサは田畑の虫。害虫を駆除してくれるツバメは農家にとって縁起がいい鳥とされている。

●第十四候  鴻雁北【こうがんかえる】
[四月九日~十三日頃]
雁はツバメと同じく時候に応じて来去する候鳥(渡り鳥)。ツバメとは逆に、日本で冬を過ごした雁が北へ帰っていく頃のこと。一羽を先頭にしたV字編隊で複数で飛ぶのが特徴。

●第十五候  虹始見【にじはじめてあらわる】
[四月十四日~十九日頃]
春が深まって日差しも強くなり、雨上がりにきれいな虹が見られる頃のこと。この時期の旬といえば初ガツオ。脂が少なくさっぱりしており、皮付きで炙った「たたき」が美味い。

穀雨【こくう】

春の雨が降って田畑とすべての穀物を潤す頃。農家では種まきに最適の時期ともいわれている。

● 第十六候  葭始生【あしはじめてしょうず】
[四月二十日~二十四日頃]
水辺の葭が芽吹き始める頃のこと。この時期に旬を迎えるのはタケノコ。食物繊維が豊富で腸内環境を整える効果も。土佐煮に若竹煮にタケノコご飯と、味わい方も多彩だ。

●第十七候  霜止出苗【しもやんでなえいずる】
[四月二十五日~二十九日頃]
霜は農作物に重大な被害をもたらす。その霜が降る時期も過ぎ、暖かくなって、苗代で稲がすくすくと成長し始める頃のこと。本格的な米作りが始まり、農家では田植えの準備に忙しくなる。耕されて水が張られた田んぼは光を反射してきらきら輝き、苗代の苗はその緑が目に心地よく、初夏の田園風景が美しい時期。

●第十八候  牡丹華【ぼたんはなさく】
[四月三十日~五月四日頃]
「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」─女性の美しさに例えられ、「富貴花」とも呼ばれる百花の王、ボタンが美しく大輪の花を咲かせる頃のこと。また立春から数えて八十八日目の八十八夜はこの頃。ちなみに前候は「霜が止む」だが、この時期に遅霜が降りることもあり、「八十八夜の忘れ霜」と言われている。

※本特集の七十二候は、原則として『略本暦』の漢字表記を基にしながら、旧字体は新字体に置き替え、読み方は現代仮名遣いで表記しています。


2014年1月発刊『BOSCO 5号』掲載 特集
取材・文/柳沢敬法、イラスト/南景太

<Part 1> まずは暦について知ることから

<Part 3>「二十四節気・七十二候」を知る “夏”

<Part 4>「二十四節気・七十二候」を知る “秋”

<Part 5>「二十四節気・七十二候」を知る “冬”