対談 赤塚耕一×河本純子さん

控えめでいて、なお存在感がある。
日本女性のようなバラをつくりたい。

今号のゲストは、日本人の嗜好にあったバラ、日本女性の美しさを表現したバラを数多く生み出してきた世界でも数少ないバラの女性育種家の河本純子さん。昨年秋にオープンした赤塚植物園のレッドヒル ヒーサーの森のローズガーデンを彩る赤塚オリジナルのバラも河本さんの手によるものです。美しいバラへの情熱を胸に育種に挑み続ける河本さんにお話をうかがいました。

『BOSCO TALK』
赤塚耕一×河本純子さん(バラ育種家)

2017年4月発行『BOSCO 18号』掲載 BOSCO TALK


日本人のどんなライフスタイルにも溶け込む品種をつくることで、「花のある暮らし」を提供していきたいと語る河本さん。

赤塚 河本さんは育種を始めてどのくらいになられるのですか。

河本 もう40年になります。当初、河本バラ園では切り花用のバラをつくっており、私も手伝いをしていました。あるとき花摘みをしていてふと思ったんです。「こんな美しいバラに香りがないのはもったいない」と。そこで「もっと香りのいい品種をつくりたい」と思ったのがきっかけです。

赤塚 ではまったくの手探りで?

河本 はい。紫色が好きだったので、まずは紫の切り花に香りを付けるための交配をするところから始めたんです。

赤塚 そして1994年に、河本さんの最初の品種『パープル レイン』が生まれたのですね。

河本 そこから新しい品種をいろいろとつくりました。

赤塚 ロングセラーになっている『ミスティ パープル』や一番人気の『ガブリエル』など河本さんの作品は数多いのですが、印象深いのは2002年の“青いバラ”『ブルー ヘブン』です。

河本 あのときは新聞やテレビの取材がすごかったですね。切り花協会の方が視察で見えてもみなさん「ブルーヘブンが見たい」って。

赤塚 確かに青いバラは衝撃的でした。それまでなかったですから。

河本 もしつくれたらノーベル賞ものだ、なんて言われてました。実は、「大好きな紫に白を混ぜたら青になるんじゃないかしら」って思ったのがきっかけ。絵の具の色づくりの発想、ほとんど素人の思いつきなんです。

赤塚 そしてその発想によって、世界でも類を見ない美しさの“青いバラ”が生まれたのですね。

河本 私自身は、ブルーヘブンはまだ未完成だと思っているんですよ。でもたくさんの方々に支持していただいている。うれしいような複雑な気持ちです(笑)。

河本さんが生んだ”逸品・たち。左上がパープルレイン、右上がブルーヘブン、下が赤塚オリジナル品種のコリーヌルージュ。日本のバラならではのやさしい美しさが見事にイメージされている。

赤塚 河本さんのバラを拝見するたびに「日本らしさにあふれている」と感じます。やはり育種するにあたって、そうした意識をお持ちなのですか。

河本 そうですね。バラというとヨーロッパ風の庭園というイメージがありますが、私が目指しているのは「日本庭園にもしっくりくる、日本人の生活にマッチしたバラ」、そして外国のバラのようなインパクトの強さやはっきりした美しさではなく、控えめで穏やかで、それでいて芯の強さと存在感がある。そんな「日本女性の美しさを表現するバラ」なんです。

赤塚 よくわかります。自己主張よりも、その控えめな存在感で周囲を引き立てる。そうした「品のよさ」や「調和」といったイメージも伝わってきます。言うならば「やまとなでしこ」のようなバラでしょうか、素敵ですね。

河本 ありがとうございます。

赤塚 それに、河本さんのバラを見ると、花色のバリエーションの多さにも惹かれます。

河本 私の品種には原色がありません。パキッと鮮やかな色もいいのですが、原色だけでは割り切れないあいまいさと繊細な色彩に美しさを感じるんです。

赤塚 おっしゃるとおりですね。日本には独自の色表現があります。外国のように「赤」なら「真っ赤」という強い色ではなく、その周辺の濃淡の幅のなかに存在する大和言葉にあるような繊細な色合い。そうした「和の美」が感じられる河本さんのバラは本当に素晴らしいと思います。

大和言葉のような
美しさ、そして品のよさ。
河本さんのバラには、
日本人の心が込められていますね。

心が癒され安らぐ
花のある暮らしを

河本 私のバラにもさまざまなスタイルがありますが、やはり基本は日本人の嗜好にあっていることをもっとも重視しています。

赤塚 河本さんのバラを見ると心のなかにある種の“懐かしさ”を感じるのはそのせいでもあるのでしょうね。それは嗜好よりもっとある意味で深い部分、日本人としてのDNAが反応しているのかもしれません。そう思うと、花の力はすごいですね。そこに花が一輪あるだけで心が癒されて安らいだ気持ちになれるのですから。私たちにとって花のある暮らしはとても大事だと痛感します。

河本 お客さまからよくお手紙をいただくんです。心の病を持っておられる方から「河本さんのバラに触れて、心が安らぎ、病状もよくなってきました」とか、働く女性から「仕事のストレスを癒してもらっています」とか。こうした声をいただくのは育種家冥利に尽きます。これまでやってきたことが報われる瞬間ですね。

赤塚 その思いがまた次の品種への意欲を生むのですね。

河本 はい。私のバラで気持ちが安らいだり、ホッとする生活を送っていただける。花にかかわる仕事をしているものの大きな喜びです。これまで60種類近くの品種を世に出してきましたが「他と同じ」「何かに似ている」がイヤなんです。常に新しいもの、“人とは違ったひとつしかないもの”をつくりたいと思ってきました。

赤塚 赤塚グループもFFCテクノロジーという世界にひとつしかない技術で、ご家庭から産業分野まで、多くの方のお役に立てるよう取り組んでいます。そうした皆様から喜びの声をいただけると本当にうれしいですね。また今回、河本さんには『レッドヒル ヒーサーの森』のローズガーデンを彩る赤塚オリジナル品種もつくっていただきました。これからもぜひ、日本人の心が込められたバラをたくさん生み出していただきたいですね。そして私たち赤塚グループも、そのバラを今まで以上に多くの人に広めていけるようお手伝いしたいと思います。本日はありがとうございました。

河本バラ園の温室。春には河本さんの想いが込められたたくさんのバラが咲き誇る。


河本純子(かわもと じゅんこ)

育種家。(有)河本バラ園取締役。40年前にバラ育種を始める。1994年に「パープルレイン」を発表して以来、日本人のライフスタイルにあったバラの育種を続け、2002年発表の青いバラ「ブルーヘブン」で注目される。以降も「ミスティパープル」「ガブリエル」など人気の品種を発表。現在も精力的に新品種の生産に力を注いでいる。

◆河本バラ園ホームページ http://www.kawamotorosegarden.com/

他にはない、ひとつしかない、
まったく新しいバラをつくりたい。
その思いが私のエネルギーに
なっています。


取材・文/柳沢敬法 撮影/野呂英成