FFCテクノロジーの導入で
命あふれる美しい海がよみがえる!
水の生命をよみがえらせる技術、FFCテクノロジー。
さまざまな場所で活用されている“FFCの現場”を紹介する。
第1回は、母なる海の再生をもたらした事例を追った。
FFCノンフィクションvol.1 「海の再生」
西明水産(広島県)
2016年4月発刊『BOSCO 14号』掲載
海底のヘドロが消え、アマモが再生する。
カキ養殖の現場に起きた奇跡。
カキの産地として有名な広島県。しかし近年は赤潮や海洋汚染といった漁場環境の変化による収穫量の減少が危惧されている。
2014年も夏の低気温のために稚貝が育たず、県内のカキ養殖業者は大きな打撃を受けた。
そんななかで着実に稚貝を育て、見事なカキの大量養殖を成功させている養殖業者がいる。瀬戸内海・安芸津湾に面し、「カキ養殖の町」として名高い広島県東広島市安芸津町の『西明水産』だ。
ほかの業者が軒並みお手上げ状態のなか、なぜ西明水産では高品質のカキを収穫できるのか―。その秘密は、西明水産の「カキ筏」が浮かぶ安芸津湾の海にあった。西明水産の店舗前に広がる安芸津湾を見て驚くのは、その透明度が高い海水の美しさ、そして海中に広がるアマモの大群生だ。
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透き通った水面に揺れるアマモの群れ。自然が織りなす美しい光景を見ると、この海がかつてヘドロに埋もれていたとは、にわかには信じられない。
稚魚や稚貝などの生息場所となるアマモは「海の命のゆりかご」と呼ばれ、良質な海洋環境の指標ともされている。
県内の多くの業者が海洋汚染に悩まされているなか、安芸津湾では美しい海の恩恵を受けてカキの養殖を行っていたのである。西明水産の主、西明教康氏は言う。
「20年くらい前まではこの海も水質汚染に悩まされていました。工場や家庭の排水などによって堆積したヘドロは60cmにも達し、落ちたら腰まで埋まってしまうような人も入れない海だったんです」
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写真は2003年のもの。FFC導入から約4年で海底のヘドロが激減した。導入前は約60cm(右手が指すところ)までヘドロで埋まっていたという。
ヘドロで汚れていた海に美しいアマモが返ってきた
そんな“危険地帯”だった海を大きく変えるキッカケとなったのが17年前の1999年、西明氏とFFCとの出会いだった。
「種カキの卸先業者からフィランソリーダーの岩谷儒須夫さんを紹介され、そこで初めてFFCを知りました。海がきれいになって養殖が上手くいくのなら試してみようと、導入を決めたんです」
以来、稚貝をホタテの貝殻に着床させた種ガキを浸す、水揚げした殻付きのカキを寝かせる、むき身のカキを袋詰め前に洗うといったプロセスに、FFC処理した海水を使うのが日課となった。
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30年前にカキの養殖業を廃業、種カキと活魚のみの営業をしていたという西明教康さん。17年前にFFCと出会い、養殖業の再開を決意した。「今では大好きな海は自然のままの美しい姿によみがえり、その恵みを受けて良質のカキが育つ。それが何よりうれしいんです」
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水揚げされたカキを浸けたり、カキを洗うために使うFFCセラミックスで処理した海水。 この水の放流がやがてアマモの再生につながっていく。
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西明水産の店舗で販売されている殻付きカキはどれもFFC処理された海水に浸されている。そうすると味のよさがずっと維持できるのだという。
するとある時期から、海からのヘドロの悪臭が消えていることに気づいたという。
「活魚店のいけすでかけ流しにしているFFC処理水を毎日40トン目前の海に流していたら、いつしか海に変化が起きていたんです」
そこで調べたら、60cmも堆積していたヘドロが4年後には15cmにまで減っていたのだ。西明氏は目を疑った。何よりも驚いたのが冒頭に触れたアマモの出現だった。
「20年前には姿を消していたアマモが出現し、海中を埋め尽くすほどに広がっていた。感動しました」
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再生された海水が打ち寄せる海岸では砂浜の質も大きく変化している。砂時計のようなサラサラで気持ちのいい感触の砂が戻ってきた。
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カキの稚貝を海中に吊るしている抑制棚。きれいな海水への反応は動物たちのほうが早いのか、抑制棚周囲には水鳥も集まって優雅に泳いでいる。
ヘドロの海にアマモが戻ってきた―この奇跡に興味を持ったのが、海中建設工事に長年携わり、魚や海藻が共生できる海中建設物づくりに取り組むなど海洋環境に関心の高い潜水士の渋谷正信氏だ。
西明水産を訪れてカキ養殖場の海に潜り、その実態を調査した彼もまた驚きを隠せなかった。
「海中工事の現場でヘドロに悩まされるのは日常茶飯事。一朝一夕には改善できない海への悪影響の深刻さを知っているからこそ、FFC処理水を流すだけでヘドロが消え、アマモが再生したという事実には本当に驚きました」
そして海の専門家の視点からも、FFCの技術に海の再生への大きな可能性を感じたという。
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「安芸津湾で目の当たりにしたFFCによるアマモの再生やヘドロの浄化は、海の再生にとって新しいモデルケースになる」と語る潜水士の渋谷正信氏。
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西明水産のカキ筏に吊るされたカキ(渋谷氏が水中カメラで撮影)。FFCによってよみがえった海の恵みがカキをよりおいしくしてくれる。
西明さんがFFCを導入してから17年余。安芸津湾の海には、今もアマモが群れを成して広がり、透明な海の水面は太陽の光を反射して鏡のように輝いている。
「ああ、自分が子どもの頃に遊んだあの昔の美しい海が戻ってきた」
船を出してそんな光景を目にしたある日、西明さんはFFCと引き合わせてくれた岩谷さんと手を取りあって男泣きしたという。
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西明さんにFFCを紹介した岩谷儒須夫さん(右)。ふたりはこの17年、二人三脚で海の再生と良質なカキの養殖に取り組んできた同志のような関係だ。
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『西明水産』 広島県東広島市安芸津町風早2850-35 TEL・FAX 0846-45-1918
FFCがもたらす海の再生への可能性
FFCの導入が海の環境を大きく変えた―
そうした事例は西明水産に限ったことではない。
例えばクルマエビ養殖で知られる熊本県・天草地方では以前、全域の養殖池がウイルスによって壊滅状態に追い込まれたことがある。
ところが養殖池の砂地にFFCエースを撒布して底質環境の向上を試みたある養殖業者では、そうした絶望的な状況下にもかかわらずクルマエビの生存率が格段にアップ。さらにはその養殖池と海の連絡水路に沿ってアマモが大量に再生し、地元でも大きな注目を集めたという。
このほかにも各地のさまざまな水産養殖業の現場から、FFC導入を機に海洋環境が改善されたという事例が報告されているのだ。
海域の水質浄化や生態系保持のために不可欠とされるアマモは、全国各地で再生事業が進められている。しかし沿岸開発による埋立てや水質悪化などに阻まれて思うように進まないのが現状だ。
そんななかFFC導入によって起きた“奇跡”の数々。そこには美しい海の再生への大きな期待と、無限の可能性が秘められている。
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誰もが驚くのが、目を見張るほどに透明な海。それは西明さんが子ども時代に遊び、親しんだ“あの頃のまま”の母なる海の姿なのだ。
撮影/野呂英成 取材・文/柳沢敬法