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陽だまりで
葉ぼたんビオラ寄せ植えし
迎える巳年の平和を祈る ― 山内くに子
【現代訳】
冬のあたたかな陽だまりの中で、葉ボタンとビオラを寄せ植えた。新たに迎える巳年(2025年)が平和な年であることを願って。
心に咲く花 2025年84回 ビオラ
掲出歌は2004年12月29日の三陸河北新報に掲載された一首です。作者は石巻市に在住の方です。戦争や紛争など、数々の痛ましい事件がおこってしまった年の瀬、作者は新年が平和であることを願って、葉ボタンとともにビオラを寄せ植えました。
スミレ科スミレ属のビオラは、黄色や白、紫、ピンク、赤、オレンジなど、色とりどりに可憐な花を咲かせます。お互いを尊重するかのように、さらには多様性を愉しむかのように、仲良く風に揺られる姿は観る人の心を優しい気持ちにさせてくれます。朗らかに、ほのぼのと、大地でハミングするかのように咲いているビオラ。
「春らんまん」「そよ風のセレナーデ」「空飛ぶうさぎ」「クリームソーダ」「ガゼルのかけっこ」「シェリルの片思い」「シュシュの約束」「つぶらなタヌキ」「太陽のアンジェ」「ふわふわ金魚ちゃん」「ニュー歌姫」「ルビーの散歩道」「スイートハニー」など、ビオラの品種名を並べると、名前を付けた人たちの幸せそうな笑顔まで思い浮かぶかのようです。
寒い時期に花を咲かせ、しかも開花期間の長いビオラはガーデニングの定番として、原産地と言われるヨーロッパや西アジアをはじめ、多くの人々に愛されてきました。園芸品種は数千種類にも及ぶそうです。
開花期間の長いビオラですが、春が近づくとさらに元気よく色づくように感じられます。冬は寒さで花数が多くなかったものが、春になると、より多く花が咲き出すからでしょう。
「少女の恋」などの花言葉の他に、「誠実」「信頼」といったものもあるビオラ。大地を彩るビオラを、世界じゅうの人たちが安心して楽しむことのできる「平和」な社会が到来することを心から願う早春です。
遊雀さんという俳人は、「奏でるは春のワルツかビオラ咲く」という俳句を詠んでいて、共感しました。ビオラがいつの日も世界じゅうの人々の「希望」の花でありますように。
田中章義(たなか あきよし)さん
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歌人・作家。静岡市生まれ。大学在学中に「キャラメル」で第36回角川短歌賞を受賞。2001年、国連WAFUNIF親善大使に就任。國學院大學「和歌講座」講師、ふじのくに地球環境史ミュージアム客員教授も務める。『世界で1000年生きている言葉』(PHP文庫)の他、歌集『天地(あめつち)のたから』(角川学芸出版)、『野口英世の母シカ』(白水社)など著書多数。
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