わが恋は
あひそめてこそまさりけれ
飾磨(しかま)の褐(かち)の
色ならねども ― 藤原道隆
【現代訳】
私の恋はあなたに逢い染めてから、ますます深くなっていったことだ。藍染めで名高い飾磨(しかま)の褐色ではないけれど・・。
心に咲く花 2024年82回 藍の花
藍染めで親しまれた「藍」の花は秋の夕暮れに咲く姿が似合います。タデ科一年草の藍。茎を除き、干した葉を二、三ヵ月発酵させ、臼で固めて「藍玉」をつくり、これをさらに発酵させることで藍染料ができます。
乾燥させた葉は漢方薬としても活用され、古来、解熱や消炎、殺菌に利用されてきました。日本では奈良時代から藍染めがおこなわれています。徳島県をはじめ、各地に藍の産地があります。
九月から十月、梢がわかれ、花穂(かすい)を出し、小花を付ける藍。俳句では藍の花は秋の季語です。
掲出歌は、NHK大河ドラマ『光る君へ』にも登場した藤原道隆の一首です。摂政・関白も務めた道隆。この和歌は、『詞花和歌集』に収められた作品です。「飾磨(しかま)」は現在の兵庫県姫路市。「褐(かち)」は藍染めの一種です。歌の「あひそめて」に、「藍染めて」と「逢い初めて」が掛けられています。
こんなふうに「藍染めて」と「逢い初めて」が掛けられることが多く、藍は相聞歌(恋の歌)に多く詠まれてきました。染め物にするために花が咲く前に刈り取られてしまうことが多い藍ですが、秋が深まるにつれ、そっと咲く小さな花を探したくなります。和歌の他、歌舞伎や小泉八雲の作品にも藍は登場しています。
近年、藍の葉から抽出したエキスが新型コロナウイルイスの細胞侵入を防ぐ働きが学術誌に発表され、国内外で脚光を浴びています。古(いにしえ)からの叡智には、まだまだ未知の薬効があるのかもしれません。近年は、紫外線防止効果も注目される藍。
のれん、手ぬぐい、風呂敷、ゆかた……。暮らしに寄り添う藍のありがたみを思いつつ、時にはその小さな花にも、思いを馳せてほしいものです。紀元前二千年から染料に用いられたと語られる藍。サッカー日本代表のユニホーム「サムライブルー」も、ルーツは実はこの藍なのだそうです。今後も時代を超えて、人々に愛されていくのでしょう。
田中章義(たなか あきよし)さん
歌人・作家。静岡市生まれ。大学在学中に「キャラメル」で第36回角川短歌賞を受賞。2001年、国連WAFUNIF親善大使に就任。國學院大學「和歌講座」講師、ふじのくに地球環境史ミュージアム客員教授も務める。『世界で1000年生きている言葉』(PHP文庫)の他、歌集『天地(あめつち)のたから』(角川学芸出版)、『野口英世の母シカ』(白水社)など著書多数。
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