心に咲く花 81回 マリーゴールド

喧嘩ってつまんないから
ドアノブに
マリーゴールド掛けて帰るね  ― 仙台高等学校二年 佐藤文菜

【現代訳】
喧嘩していてもつまらないから、ドアノブにマリーゴールドを掛けて帰るよ。
また今度、一緒に遊ぼう。

心に咲く花 2024年81回 マリーゴールド


掲出歌は、東洋大学が今年発表した第三十七回『現代学生百人一首』の入選歌に選ばれた作品です。毎年、東洋大学が発表する『現代学生百人一首』は、今回六万三六〇六首もの短歌が集まり、その中から入選歌百首が発表されました。今年は次のような作品も入選歌に選出されています。

「懐かしい祖母の思い出語りつつ折り紙で折る睡蓮の花」(京都西山高等学校一年 鈴木陽菜)
「マスク取りわかったことが二つある空気の美味しさ君の凛々しさ」(大田区立大森第六中学校二年 丸山泰生)
「軽トラで僕を追い越す祖父の声合鴨の鳴く春の畦道」(慶應義塾普通部三年 田中至)
「八月よこの世界から弾薬をすべて集めて花火にしたい」(ハートランドしぎさん看護専門学校一年 矢邊龍佳)
「AIが出した答えと違うけどこの瞬間は君を信じる」(東京都立新宿高等学校一年 今村柚希)。

今を生きる若い世代の思いが込められた「現代学生百人一首」は毎年多くのメディアで紹介され、楽しみにしている読者は海外にも広がっています。

「喧嘩ってつまんないからドアノブにマリーゴールド掛けて帰るね」という高校二年生の佐藤文菜さんの一首。鮮やかであたたかな黄色や橙色の花を次々に咲かせる、花の時期がとても長いマリーゴールド。花壇の定番として、人気の花です。

聖母マリアの祭日に咲いていたことから、「聖母マリアの黄金の花」とも呼ばれるマリーゴールド。多くの地域で親しむことのできる、なじみ深い花だからこそ、掲出歌のように家の「ドアノブ」にも似合うのかもしれません。「喧嘩ってつまんない」と語る作者の言葉を借りれば、「戦争ってつまんないから両国にマリーゴールドをともに咲かそう」と詠みたくなる昨今。世界じゅうに戦火の火種がある今こそ、地球各地の大地にも人々の心にもマリーゴールドが咲くことを願ってやみません。


田中章義(たなか あきよし)さん

歌人・作家。静岡市生まれ。大学在学中に「キャラメル」で第36回角川短歌賞を受賞。2001年、国連WAFUNIF親善大使に就任。國學院大學「和歌講座」講師、ふじのくに地球環境史ミュージアム客員教授も務める。『世界で1000年生きている言葉』(PHP文庫)の他、歌集『天地(あめつち)のたから』(角川学芸出版)、『野口英世の母シカ』(白水社)など著書多数。

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