向じ家の南瓜の花は
屋根をこえて
延び来るかな黄の花を向けて ― 島木赤彦(しまきあかひこ)
【現代訳】
向こうの家の南瓜の花は元気がよく、
屋根をこえて、こちらにまで延びてきているなあ。黄色い花を向けながら。
心に咲く花 2024年79回 南瓜(かぼちゃ)の花
今年、庭に植えた南瓜を見ながら、黄色い花は見る人をワクワクさせてくれるなあと思いました。
アジアでもアフリカでも、ウクライナでも栽培されている南瓜。南米ペルーや北米メキシコでは紀元前から南瓜栽培がおこなわれていたそうです。
国内に目を向けると、愛知県原産の「砂子南瓜」や沖縄県在来種と言われる「島かぼちゃ」などが知られています。
北海道で農業を営む歌人の時田則男(ときたのりお)さんには、「トレーラーに千個の南瓜と妻を積み霧に濡れつつ野をもどり来ぬ」という作品があります。
北海道から沖縄まで、さらには世界でも、時代を超えて親しまれてきた南瓜。栄養豊富な野菜です。南瓜の煮物やパンプキンスープなど、世界の家庭の食卓に今日もきっと南瓜は活用されているのではないでしょうか。
「かぼちやおほきく咲いてひらいておばあさんの顔」と詠んだのは自由律俳句の種田山頭火(たねださんとうか)です。文豪夏目漱石(なつめそうせき)にも、「なんのその南瓜の花も咲けばこそ」という俳句があります。「南瓜煮てこれも仏に供へけり」と詠んだのは高浜虚子(たかはまきょし)でした。
近代歌人 島木赤彦が詠んだ掲出歌と向き合いながら、私は現在、小学生の教科書に採用されている原田直友(はらだなおとも)さんの「かぼちゃのつるが」という作品を思い出しました。
かぼちゃのつるが
はい上がり
はい上がり
葉をひろげ
葉をひろげ
はい上がり
葉をひろげ
細い先は
竹をしっかりにぎって
屋根の上に
はい上がり
短くなった竹の上に
はい上がり
小さなその先たんは
いっせいに
赤子のような手を開いて
ああ今
空をつかもうとしている
幾つかの教科書に採られているこの作品。繰り返し表現を用いながら、南瓜の元気な様子を読者に感じさせてくれます。ちなみに俳句で「南瓜の花」は夏の季語、「南瓜」は秋の季語です。
鑑賞して良し、食べて良しの南瓜はこれからも多くの人たちの心身を潤してくれることでしょう。
田中章義(たなか あきよし)さん
歌人・作家。静岡市生まれ。大学在学中に「キャラメル」で第36回角川短歌賞を受賞。2001年、国連WAFUNIF親善大使に就任。國學院大學「和歌講座」講師、ふじのくに地球環境史ミュージアム客員教授も務める。『世界で1000年生きている言葉』(PHP文庫)の他、歌集『天地(あめつち)のたから』(角川学芸出版)、『野口英世の母シカ』(白水社)など著書多数。
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