残る生を心つくして生きたしと
思ひ深むるミモザの下に ― 長井隆子
【現代訳】
あとどれくらい余生があるのかわからないけれど、残りの人生、心を尽くしていきたい。そんな思いが深まっていく、鮮やかな花を咲かせるミモザの下にいると。
心に咲く花 2024年74回 ミモザ
木全体が鮮やかな黄色に染まるほど、芳香を放ちながら早春に咲くミモザ。
ミモザはギンヨウアカシアやフサアカシアなど、黄色い房状の花を咲かせるマメ科アカシア属の総称とされています。原産地がオーストラリアの他、いくつもの種類が世界各地に存在しています。フランスでは、毎年二月にミモザ祭りが開催される地域もあるそうです。
日本でも、春を呼ぶ花のひとつとして詩歌に詠まれてきました。
「ミモザ咲く海風春をうながせば」と詠んだのは、俳人の富安風生(とみやすふうせい)です。二〇〇九年に発表された短歌誌では、歌人の服部真里子(はっとりまりこ)が「沈黙は時に明るい箱となり蓋を開ければ枝垂れるミモザ」という作品を詠んでいます。昭和を代表する女流歌人の一人・安永蕗子(やすながふきこ)にも「光量は誰のものともなき重さミモザ・アカシア両手に剰(あま)る」という作品があります。
現代においてミモザを詠む歌人や俳人が増えているように感じられるのは、庭木として全国的により多くの人々に親しまれているからなのかもしれません。
「豊かな感受性」「優雅」「友情」「感謝」などがミモザの花言葉と言われています。生長が早く、五メートルから十メートルの高さとなることもある常緑高木。ふわふわとしたまんまるの小花を飾りもののように枝いっぱいにつける姿は微笑ましくもあります。けれども、それが木全体を覆ったときの優雅な様子は、「大地のドレス」にも喩(たと)えたくなります。
掲出歌は、二〇一四年に刊行された『ミモザの下に』という歌集の作品です。タイトルにもなった作品でした。一つ一つの花房が精いっぱいに咲き、全体で豊かなハーモニーを醸す、交響曲のような趣(おもむき)のあるミモザ。その木の下に立ち、残された一日一日を大事にしていこうと決意する作者の真摯な思いが伝わる一首です。
田中章義(たなか あきよし)さん
歌人・作家。静岡市生まれ。大学在学中に「キャラメル」で第36回角川短歌賞を受賞。2001年、国連WAFUNIF親善大使に就任。國學院大學「和歌講座」講師、ふじのくに地球環境史ミュージアム客員教授も務める。『世界で1000年生きている言葉』(PHP文庫)の他、歌集『天地(あめつち)のたから』(角川学芸出版)、『野口英世の母シカ』(白水社)など著書多数。
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