いにしへに恋ふる鳥かも
弓絃葉(ゆずるは)の
御井(みい)の上より鳴き渡りゆく ― 弓削皇子
【現代訳】
昔を偲んでいる鳥なのでしょうか。ゆずり葉の泉の上を鳴き渡って行くところをみると‥。
心に咲く花 2024年71回 ゆずり葉(弓絃葉〔ゆずるは〕)
今回は『万葉集』第二巻におさめられた弓削皇子(ゆげのみこ)の歌を紹介しました。「御井(みい)」は「泉」を示す古語です。『万葉集』にはこの歌を含め、二首の「弓絃葉」の歌があります。
古名を「弓絃葉(ゆずるは)」という「ゆずり葉」。古い葉と入れ替わるように新しい葉が出るという特色から、「家が代々つながり、続いていくこと」を思わせる縁起木として、正月飾りに用いられます。
新葉の生長を見届けてから、古い葉が落ちるゆずり葉。世代交代をしっかり見定めてから、ご先祖様は古い葉とともに天に旅立つという民間伝承が全国各地にあります。日本が原産国のひとつと言われ、童謡にも歌われたゆずり葉。丈夫な木で、耐久性もあるため、縄文時代の人々は石斧の柄に使っていたそうです。
新旧の葉を入れ替えることから再スタートをきる人にも贈られるゆずり葉。庭木としても人気です。花言葉は「譲渡」「世代交代」「新生」。
2023年8月2日、赤塚植物園グループ会長の赤塚充良さんがお亡くなりになられました。享年91。朗らかな笑顔やあたたかな人柄で、国内外に多くのすばらしい友人を得て、たくさんの人々に慕われた生涯でした。今回はカトレアをはじめとした赤塚充良さんゆかりの花を紹介することも考えましたが、ふと、正月飾りで、時代を超えて家々を護り、人々をも励ますゆずり葉の和歌を紹介したくなりました。赤塚充良さんの残したものは、必ずや御家族に受け継がれ、時代を超えて多くの人々の心を支えるものとなってくれることでしょう。持ち前の明るさとあたたかさで、きっと今頃は天国の人気者となっているに違いありません。常緑高木の尊きゆずり葉が、先の先の世代まで見護り続けてくださることを祈念しつつ、御冥福を心よりお祈り申し上げます。
田中章義(たなか あきよし)さん
歌人・作家。静岡市生まれ。大学在学中に「キャラメル」で第36回角川短歌賞を受賞。2001年、国連WAFUNIF親善大使に就任。國學院大學「和歌講座」講師、ふじのくに地球環境史ミュージアム客員教授も務める。『世界で1000年生きている言葉』(PHP文庫)の他、歌集『天地(あめつち)のたから』(角川学芸出版)、『野口英世の母シカ』(白水社)など著書多数。
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