情熱とFFCの技術が
初夏の風物詩・ホタルを
呼び戻した
自然環境の指標虫と言われるも、減少の一途にあるホタル。
今回は、あふれる熱意とFFCの技術で初夏の風物詩を再生させた、東西2つの奇跡を紹介する。
FFCノンフィクションvol.2 「美しきホタルよ、再び」
山中渓(大阪府阪南市)・深大寺(東京都調布市)
2016年7月発刊『BOSCO 15号』掲載
山で、川で、海で、そして街で。
よみがえった水が地域の環境を変えていく。
(2016.6.8 取材・撮影)
初夏から梅雨にかけた短い季節の夜、清らかな水辺が幻想的な光で彩られる―美しいホタルが舞う光景がこの上なく貴重になってしまったのはいつ頃からか。
ホタルが姿を消した大きな一因として挙げられるのは、無秩序な開発や環境破壊、排水流入など河川の水質汚染によって“清らかな水”が奪われているという現実だ。
その現実に立ち向かい、美しき季節の風物詩を取り戻そうと、ホタルの再生に情熱を注ぐ人たちがいる。そして、彼らの取り組みを支えているのが、水をよみがえらせる技術・FFCテクノロジーだ。
大阪府阪南市山中渓地区。かつては紀州街道第一の宿場として、現在は桜の名所として知られる自然豊かなこの地で約10年にわたりホタル再生に取り組んでいるのがNPO法人「ホタル燦燦会(さんさんかい)」だ。
きっかけは2007年1月。フィランソ会員で燦燦会会長の福岡久一さんが本社セミナーに参加し、北海道や東京などで行われているFFCを活用したホタル育成活動を知って「地元・大阪でもホタルは再生できるはず」と一念発起。2ヵ月後には有志を募って環境破壊による水質汚染に悩む地元・山中渓の渓流にFFCエースを投入、再生活動をスタートした。
燦燦会副会長の三窪幸男さんは、
「FFCエースを女性が履くストッキングに入れ、それをナイロンネットに入れて渓流の上流に沈めたんです。『飛んでくれ』『奇跡よ起きてくれ』と祈る気持ちでした」
と当時の心境を語ってくれた。
FFCが水を変えた。
ホタルが渓流に戻ってきた。
その祈りは、やがて天に通じる。
「投入した翌月には、ホタルの幼虫のエサになる小さな巻貝、カワニナが再生し始めたんです」。
きれいな水のなかでしか生息できないというカワニナの再生。FFCエースによって早くも渓流の水質に改善が見られたのだ。
そして、わずか3ヵ月後の6月、山中渓を例年になく飛び交うホタルを確認。翌年からはホタルの乱舞する光景に地元の人たちも驚いていた。今では2~3km下流でもホタルの飛翔が確認されている。
「その光景を見たときは感無量でした。FFCが水を変えたんだと。でも本当に大事なのは続けること。そのためには活動を継続させ、ホタルが生息できる自然環境を整える必要があります。そこで2008年、正式に『ホタル燦燦会』を発足させたのです」(三窪さん)。
以来、ホタル再生を中心に渓流周辺の環境整備などの活動を本格化。山中渓は「ホタルの里」として大阪ミュージアム構想に登録されるまでになった。さらに、
「ホタル育成は子どもたちにとって最高の教材」と大阪市内の小学校の校庭にFFC元始活水器を設置してホタルの舞うビオトープを造成するなど活動の幅は拡大している。また、ホタル再生活動は思わぬうれしい“副産物”を生んだ。
「FFCを投入した渓流周辺の山では土壌が改善し立派なマツタケが採れるようになりました。さらに渓流が最終的に流れ込む大阪湾の河口付近では海水の水質改善も。ヘドロが激減した沿岸では見事なアサリが大量に採れるんです。いまや地元民の隠れた潮干狩りの名所です(笑)」(燦燦会・古本さん)
ホタル再生活動を通じて、山も海も本来の姿を取り戻しつつある。
「川と山と海が『FFCによる環境改善』という1本の糸でつながり、地域の自然がトータルでよみがえってきた。これは素晴らしいことだと思います」(三窪さん)。
「私たちが最終的に目指しているのはFFCの技術で水を改善し、そこから地域の自然環境全体を再生し、守っていくこと。ホタル再生はそうした理念を象徴する活動なのです」(燦燦会・尾高さん)
今年の6月上旬、燦燦会の方々と初夏の山中渓を初めて訪れた。
夕暮れが宵闇に変わる19時半過ぎ。JR山中渓駅からほど近い山中の渓流沿いに立って目を凝らすと、あちこちにほのかな光が瞬き始め、その光の数が徐々に増えていく。まさに乱舞。自然が織りなす幻想的なショーに目を見張った。そこにはあるのは、本来の営みを取り戻した“ありのまま”の自然だ。この姿を守り、絶やさぬために、燦燦会の気高い取り組みは、これからも綿々と続いていく。
再生不可能と言われたホタルが自然繁殖する!
水と緑の名刹・深大寺に奇跡が起きた
(2016.5.20 取材・撮影)
奈良時代の創建で、都内では浅草寺に次ぐ古い歴史を持つ東京都調布市の深大寺。豊かな緑と湧き水に恵まれ、江戸時代にはホタルの名所として知られたが、現在では開発が進んで環境も激変。ホタルも姿を消してしまった。
「自然環境を悪化させてしまったのは私たち大人の責任。だからこそ子どもたちのために、少しでも自然本来の姿を取り戻したい。そのために自分は何ができるのかという思いをずっと持っていました」と語るのは調布市在住のフィランソリーダー・竹本喜子さん。
そして彼女がたどり着いた答えが、「地元の深大寺にもう一度ホタルを呼び戻すこと」だった。
2006年8月、専門家に深大寺周辺のせせらぎの水質調査を依頼。かつての清流からはかなりの残留農薬が検出され、ホタル再生は不可能と言われたという。
だが竹本さんにはFFCという希望の一手があった。さっそくFFCエースをネットに小分けして池やせせらぎに設置。
その後、カワニナも投入。すると、早くも翌月からカワニナの数が増え始めた。水質が改善されていると確信し、今度はホタルの幼虫の放流を試みた。
さらに深大寺関係者や地域の方々の協力を得て、水辺の土壌改善にも着手。ホタルの生育に影響を及ぼす周辺の街路灯にオレンジフィルムをかぶせるなど、手を尽くして再生活動を続けた。
その甲斐あって翌2007年6月、深大寺周辺の水辺には、数は少ないながらも幽玄なホタルの光が戻ってきたのである。
「最初は譲っていただいたホタルの幼虫を放流して育てていたのですが、2011年に放流をやめたところ、翌2012年からは自然繁殖したホタルが現れたのです」
ホタルの自然繁殖、それは時代とともに失われてしまった自然環境が、昔のままの本来の姿に再生され始めた証しとも言えよう。
その後も地道に続けられた活動により、深大寺は数多くのホタルが乱舞する“名所”としての姿を取り戻しつつある。
子どもたちの笑顔に託す
ありのままの自然の姿
竹本さんらと訪れた初夏の深大寺の夕暮れどき。せせらぎのあちこちでほのかな灯りが舞い始めた。
「こうして舞っているホタル1匹1匹が、本当に愛おしく思えるんです」としみじみ語る竹本さん。
通りかかった親子連れが足を止め、光の舞いに見とれている。飛び交うホタルを追って歓声を上げる子どもたち。その光景に目を細めながら話してくれた。
「こうした楽しそうな笑顔を見ると、頑張って取り組んできてよかったと心から思います。それに子どもたちの『ホタルを毎年見たい』という思いは、きっと自然環境への関心にもつながるはずですから」
FFCの技術に支えられ、日本の西で東で、初夏の風物詩の再生は、着実に歩みを進めている。
真摯な思いがホタルを再生させ、その取り組みを無言の教材にして、子どもたちは自然の大切さを学ぶ。酔いしれるような光の舞いの向こうに、志あるホタルの守り人たちの、次世代への深い愛情が見えた。
撮影/野呂英成、生嶋利充 取材・文/柳沢敬法