オリーブの銀の裏葉の返るまで
立ちて待ちをり次吹く風を ― 今泉由利(いまいずみゆり)
【現代訳】
オリーブの銀色に輝く裏葉が再び返るまで、次に吹く風を立って待っていた。
心に咲く花 2023年66回 オリーブ
作者は三河湾の静かな海辺の町に生まれ育ち、1996年にアルゼンチンのブエノスアイレスに移り住んだ、という経歴をもつ人です。アルゼンチンで生活した後はブラジルや米国のニューヨーク、日本などでも生活をしています。さまざまな植物を詠んだ歌が多く、オリーブだけでも、次のような作品もあります。
「また少し大きくなりぬ白緑のオリーブ果実に幾く日の過ぎる」
「すこやかにオリーブの実の育ちゆく小高き丘は登りぬ下りぬ」
「近づきてやうやく見付く白四弁オリーブの木のオリーブの花」
なかなか戦禍の終わらないウクライナの惨状を思いつつ、今回は「平和」という花言葉を持つ「オリーブ」を取り上げました。
ギリシャ神話の英雄「ヘラクレス」が理想郷の国からオリンポスに持ってきた、という言い伝えもあるオリーブ。古代オリンピックで優勝者にオリーブの冠が授与されていたことはよく知られます。
古代エジプトでも神様から栽培や利用方法を教わった、という伝承があります。聖書の「ノアの箱舟」で、大洪水後にノアが放った鳩が加えてきたのがオリーブの枝だったとされています。
初夏に白や黄白の小さな可憐な花をたくさん咲かせるオリーブは、確かに平和や希望の象徴と呼ぶのにふさわしい樹木かもしれません。樹齢が長く、地中海沿岸では樹齢千年を超える樹木にも花が咲き、実がついているそうです。オリーブオイルは現代でも世界中で愛用されています。
地球に千種類以上もの品種があると言われるオリーブ。別名「太陽の樹」とも呼ばれ、これからがまさにオリーブの季節です。ウクライナをはじめ、世界中に「平和」が訪れることを願わずにはいられません。
田中章義(たなか あきよし)さん
歌人・作家。静岡市生まれ。大学在学中に「キャラメル」で第36回角川短歌賞を受賞。2001年、国連WAFUNIF親善大使に就任。國學院大學「和歌講座」講師、ふじのくに地球環境史ミュージアム客員教授も務める。『世界で1000年生きている言葉』(PHP文庫)の他、歌集『天地(あめつち)のたから』(角川学芸出版)、『野口英世の母シカ』(白水社)など著書多数。
★こちらの記事もご覧ください★
【BOSCOトーク】対談 赤塚耕一×田中章義さん