げんのしょうこ
ほのかなる香の甘ければ
今日も煎じて枕べに置く ― 小市已世司(こいちみよし)
【現代訳】
古来、民間生薬として知られた「げんのしょうこ」。ほのかな香りが甘く優しいので、今日も煎じて、枕辺に置いている。
心に咲く花 2022年54回 げんのしょうこ
「どくだみ」「せんぶり」とともに、昔から日本の三大薬草のひとつに数えられてきた「げんのしょうこ」。よく効くことから「医者いらず」の別名をもつほど、民間薬として用いられてきました。おなかの調子が悪い時などに、飲めばたちまち薬効が現れることから「現(げん)の証拠(しょうこ)」と呼ばれるようになったと言われます。
地域によっては、まるで効果がてきめんな「テキメンクサ」、たちまちに効く「タチマチクサ」と呼ぶところもあります。
古くから薬効が知られ、現在でも市販薬に配合されているげんのしょうこ。夏に直径1センチから1.5センチほどの可愛らしい花を咲かせます。
高さ50センチほどの多年草で、可憐に咲く花を俳人の高浜虚子(たかはまきょし)は、「うちかがみげんのしょうこの花を見る」と詠みました。つい屈(かが)んで小さな花を眺めたくなる。「げんのしょうこ」はそんな花なのかもしれません。
国内の全国各地で見ることができるげんのしょうこ。整腸薬としてはもちろん、煎じてお茶の代わりに飲めば体調を整える、と言われています。入浴剤の代わりにすれば、体が温まると語り継がれています。
与謝野晶子(よさのあきこ)は、「夕明りげんのしょうこを次々に人たずさへて現るる坂」という歌を詠み、百年以上生きた土屋文明(つちやぶんめい)も、「げんのしょうこ二十株ばかり植ゑたらばわが一年は飲み足りぬべし」という一首を詠んでいます。
九一八年に刊行された『本草和名』にも出てくる「タチマチクサ」は、げんのしょうこだと考えられています。1000年以上にわたって、人々に重宝されるげんのしょうこは、これからも時代を超えて愛される植物なのでしょう。
花言葉は「心の強さ」です。
田中章義(たなか あきよし)さん
歌人・作家。静岡市生まれ。大学在学中に「キャラメル」で第36回角川短歌賞を受賞。2001年、国連WAFUNIF親善大使に就任。國學院大學「和歌講座」講師、ふじのくに地球環境史ミュージアム客員教授も務める。『世界で1000年生きている言葉』(PHP文庫)の他、歌集『天地(あめつち)のたから』(角川学芸出版)、『野口英世の母シカ』(白水社)など著書多数。
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