連翹の 花のたわみを とびこえて
啼くうぐひすの 時にちかづく― 太田水穂
【現代訳】
連翹の黄色い花がたわわに咲くところをとびこえて、うぐいすが時々近づいてくる。「春告鳥」とも呼ばれる、その啼き声を聞かせながら・・。
心に咲く花 2020年27回 連翹(れんぎょう)
連翹(れんぎょう)の黄色がまぶしい季節がやって来ました。
北海道から沖縄まで、日本全土で見ることができる連翹。枝ごとに鮮黄色(せんおうしょく)の花を豊富につけて咲く連翹の華やかさは待ちに待った春の到来を告げる存在として、見る人の心を明るくしてくれます。
中国が原産と語られることが多いのですが、実は日本に自生する野生種(日本原産種)もあるそうです。
連翹を愛した日本人というと、彫刻家で詩人の高村光太郎の名が浮かびます。愛する妻を描いた『智恵子抄』で名高い高村光太郎は生前、この連翹を愛し、四月二日の命日が連翹忌と呼ばれるほどです。
「連翹の はなちそめたる ひかりかな」と詠んだのは俳人の久保田万太郎。
夏目漱石には「連翹の 奥や碁を打つ 石の音」という俳句もあります。
歌人の与謝野晶子は、「春の神の まな児うぐひす 嫁ぎくると 黄金扉つくる 連翹の花」と詠み、昭和天皇や上皇さまの歌の指南役だった岡野弘彦も、「月青き 夜半にいできて 連翹の 花むら燃ゆる 庭に立つなり」という歌を残しました。
多くの俳人や歌人を魅了してきた連翹。
掲出歌を詠んだ太田水穂は、一八七六(明治九)年に長野県で生まれた国文学者です。同級生には島木赤彦がいました。さらに親族には、後に若山牧水の妻となる太田喜志子もいた水穂。一九四八(昭和二十八)年には日本芸術院会員に選出された水穂も、自然を愛(め)で、連翹や鶯(うぐいす)を好んだ一人だったのでしょう。
秋に実がカサカサになったら採取し、日干ししたものを煎じて飲むと、皮膚病や消炎、利尿などにも薬効があると語り継がれた連翹。
見て楽しく、抗菌作用のある成分を含んだ漢方薬としても親しまれた連翹は多くの人々の心身を潤し、朗らかにしてきた存在でした。
七三三(天平五)年に完成し、聖武天皇に奏上されたと語られる『出雲風土記』にもその名が出てきます。
田中章義(たなか あきよし)さん
歌人・作家。静岡市生まれ。大学在学中に「キャラメル」で第36回角川短歌賞を受賞。2001年、国連WAFUNIF親善大使に就任。國學院大學「和歌講座」講師、ふじのくに地球環境史ミュージアム客員教授も務める。『世界で1000年生きている言葉』(PHP文庫)の他、歌集『天地(あめつち)のたから』(角川学芸出版)、『野口英世の母シカ』(白水社)など著書多数。
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