指導=
森谷敏夫(京都大学名誉教授/京都産業大学教授/中京大学客員教授)
吉田直人(NSCAジャパンHPCヘッドコーチ・ストレングス&コンディショニングコーチ)
筋肉を増やせば認知症も生活習慣病も予防できる
最近「筋トレ」が大ブームです。特に注目されているのが「中高年の筋トレ」。
その大きな理由は、以下のことがこの数年の最新研究で科学的に証明されているから。
②筋トレによって、血管や脳がよみがえる!
③筋トレは糖尿病の予防、改善に大きな効果がある!
④筋肉が増えると基礎代謝が上がり、太りにくく痩せやすい体になる!
筋トレを積極的に行うことで、一生、体も脳も若々しい健康寿命を伸ばすことができるのです。
中高年のトレーニングというと「ウォーキングが一番」と考えている人が多いと思います。
もちろんウォーキングやジョギングも現在の筋肉の「維持」には役立ちますし、こうした有酸素運動と呼ばれるものは血管を健全に保ち、心肺機能の維持・改善に効果がありますから、やめる必要などまったくありません。
むしろ筋トレと併用したほうが健康効果は高まります。
けれど、「一生動ける、歩ける元気な体を作る」ためには「歩くだけ」では足りない、と思ってください。
「毎日ゆっくり歩く」というトレーニングを続けていれば、ゆっくり歩くために必要な筋肉「だけ」は維持できるでしょう。
けれど、日常生活を快適にストレスなく、しかも軽快に行うためには、それだけの筋肉では不足です。日常動作には階段の上り下り、坂道の上り下り、荷物を持って移動することなどもたくさん含まれます。
こうした動作を、一生行っていくためには、積極的に筋肉を「増やす」ことが非常に大切なのです。
しかも、冒頭に書いた通り、筋肉を増やすトレーニングは、認知症、脳梗塞、心筋梗塞、糖尿病の予防にもつながることが最近の研究ではっきりしています。
糖尿病の治療も、単に糖質を制限してダイエットに努める、ということよりも、積極的な運動、特に筋トレが有効だということがわかっています。
今回の特集では、中高年の方でも自宅で手軽に、しかも安全に行える筋トレをご紹介していくことにします。
ジムデビューを考えている方も、まず基本を知って、自宅筋トレで少し体を慣らしておくと、ジムでのトレーニングも非常にスムーズになります。
筋トレを避けた方がいい時間を知っておこう
最初に注意事項からお話ししましょう。
「筋トレ」を効率的に行うのなら、避けたほうがいい時間が3つあります。
●食事の直後
食後の体は食べたものを消化吸収するためのエネルギーが必要で、とくに胃には血液が大量に送り込まれます。この状態で筋トレを行いさらにエネルギーを使ってしまうことになり、消化吸収のエネルギーが不足しかねません。
また食後は副交感神経が優位になるリラックスした状態です。筋トレはリラックス状態よりも少し興奮した交感神経優位の時間のほうがおすすめです。
●空腹時
空腹時は交感神経優位ではあるものの、筋トレに必要なエネルギーのほうが不足しています。エネルギー不足の状態でトレーニングをすると、筋肉の中のグリコーゲンを使ってしまうので、筋トレをしながらかえって筋肉を減らすことになりかねません。
また空腹時は脳の糖分が不足しています。トレーニングは頭がクリアな状態で行ってください。
●就寝直前
就寝前に筋トレをすると、脳が興奮状態になり「やる気」が出るのはいいのですが、眠気もふっとんでしまいます。寝付きが悪くなると筋肉が大きくなるときに必要な成長ホルモンの分泌も不十分になりますので、避けましょう!
就寝前のトレーニングに適しているのは、筋トレよりも、ゆっくりとした静的ストレッチなどです。
これさえ心得ておけば、あとは「何回やるか」「1回何分やるか」「週に何回やるか」ということには、あまりこだわらなくてもかまいません。
まずは週に3回、ストレッチと筋トレの時間を合わせて1回20分程度やってみる、という形でどうでしょう?
一番大切なのは続けることです。
日常の習慣として、楽に続けられるペースを生活スタイルや体力に合わせて、みつけてください。ジムに通う場合でも、「週1回だけ仲間とジム、週に2日自宅でトレーニング」といった組み合わせも楽しいのではないでしょうか。
「もっと筋肉を増やしたい」と思うならば、少しずつ「回数」などを増やすことも大切です。筋肉はいきなり数日で大きくなりませんが、それでも慣れると初日にはできなかったことがラクにできるようになります。これは「脳」が慣れてきたせいです。ラクにできることよりも、少しだけ負荷を与えないと筋肉は増えませんので、自分ペースで、ちょっとだけ頑張ってみることをおすすめします。
次回からは、具体的な方法について写真をまじえてご説明していきますのでお楽しみに!
<一生動ける・歩ける体を作る 自宅筋トレ講座 Part 2>
森谷 敏夫(もりたに・としお)
1950年、兵庫県生まれ。1980年、南カリフォルニア大学大学院博士課程修了(スポーツ医学、Ph.D.)。テキサス大学、京都大学教養部助教授、京都大学大学院人間・環境学研究科教授を経て2016年から京都大学名誉教授、京都産業大学・中京大学客員教授。専門は応用生理学とスポーツ医学。著書に『京大の筋肉』(ディジタルアーカイブス)、『やせられないのは自律神経が原因だった』(青春出版社)、『定年筋トレ』(ワニブックスPLUS新書)ほか。
吉田 直人(よしだ・なおと)
1976年、千葉県出身。千葉県私立成田高校、中央大学経済学部卒業。一度は金融業に就職するも、トレーナーの道を選ぶ。ウイダートレーニングラボでヘッドS&Cコーチ、ラグビートップリーグのホンダヒートでヘッドS&Cコーチとして5年間従事し、2017年4月よりNSCAジャパンヒューマンパフォーマンスセンターヘッドS&Cコーチを務める。資格:CSCS(認定ストレングス&コンディショニングスペシャリスト)、NSCA-CPT(NSCA認定パーソナルトレーナー)著書に『定年筋トレ』(ワニブックスPLUS新書)ほか