アマモは種子または地下茎の分岐によって繁殖する海草で、日本沿岸の砂泥域に広く分布しています。このアマモの群落(以下、アマモ場)は、「海のゆりかご」と呼ばれ、様々な魚介類の稚育場や産卵場所の役割を持っています。また、赤潮の原因となる窒素やリンを吸収したり、吸収した二酸化炭素を長期間保持したり(ブルーカーボン)、地球環境改善の側面からも、アマモ場の重要性が注目されています。
赤塚植物園グループでは、FFC製品を使用された水産関連の事業者様の周辺海域でアマモの生育が旺盛になったり、アマモ場が復活したり、といった事例をしばしば耳にしてきたことから、FFC製品のアマモの生長に関する研究を行ってきました。また、2004年4月に熊本県天草市宮野河内湾にてFFCセラミックス18トンおよびFFC海用改質材1000袋を施用した“天草ドラゴン伝説”を実施し、湾内の環境改善に取り組み、その後の生態系への影響の調査を行いました。
このページではそれらの内容をまとめてご紹介します。詳細はPDFファイルをご覧ください。
FFC研究レポート 沿岸生態系編
【内容】
- 「FFCセラミックスのアマモ生長への効果検証」
- 「天草宮地浦湾でのアマモ育成試験」
- 「アマモ実生苗の光合成活性に対するFFCセラミックスの効果」
- 「FFC製品のコアマモ生長への効果検証(水槽実験)」
- 「天草市宮地浦湾のコアマモ生育エリア調査」
FFCセラミックスのアマモ生長への効果検証(水槽実験)
要約:
アマモ(Zostera marina)は、北半球の温帯域に広く分布している海草の一種で、穏やかな沿岸域や内湾域に生育し、砂底や泥底に「アマモ場」と呼ばれる密な群落を形成する。このアマモ場は、沿岸生態系における一次生産者として大きな役割を果たし、沿岸の魚類やその他の動物にとって重要な保育の場となっているほか、二酸化炭素を吸収・貯留して地球温暖化の緩和に役立つ「ブルーカーボン」としても注目されている。かつてアマモは、日本のほとんどの沿岸域に分布していたが、1950年代以降、アマモ場は激減している。本実験では、この重要な植物であるアマモの生育に対するFFCセラミックスの効果を水槽実験により検証した。天然のアマモ場から植物体を回収し、地下茎が5節、地上部は葉鞘と葉鞘先端から本葉が1cmだけあるアマモ苗を調整した。このアマモ苗を、FFCセラミックス100gを砂上に入れた水槽(事前に海水40Lと砂10Lを添加)に移植し、120日間培養した。FFC水槽のアマモ苗は、対照区と比較して、葉の乾燥重量が2.57倍、地下茎の乾燥重量が3.89倍有意に大きかった。実際の海洋環境と水槽の環境には違いはあるが、本実験のデータから、実際の海域でもFFCセラミックスがアマモの生育を促進することが期待される。
天草市宮地浦湾でのアマモ育成試験
要約:
アマモに関する別の研究レポート(「FFCセラミックスのアマモ生長への効果検証(水槽実験)」)で、FFCセラミックスによって水槽内のアマモの生長が促進されることを報告した。しかし、天然の沿岸域と水槽内では環境が異なる。そこで、本実験では、天然の沿岸域(熊本県天草市宮地浦湾)において、アマモの生残や生長、地下茎の分岐にFFCセラミックスが影響を与えるのか、調査した。FFCセラミックス区として、ゾステラマット(アマモ場の造成専用に開発されたヤシ繊維マット)にアマモ種子と現場の底質、FFCセラミックス40gを挟み込み、干潮時の水深が4mの場所に設置した。対照区として、ゾステラマットにアマモ種子と底質のみを挟み込み、FFCセラミックス区から2m離れた同水深の地点へ設置した。5ヵ月後に、マット上で生存していた個体数および地下茎の分岐数は、対照区では74および16であったが、FFCセラミックス区では92および31といずれも高値であり、特に地下茎の分岐は約2倍と顕著に多かった。また、FFCセラミックス区では対照区と比べて葉数、根数、地上部の長さ、最大根長、地上部乾燥重量、地下部乾燥重量が有意に高値であった。したがって、水槽内だけでなく、天然の海域においてもFFCセラミックスによるアマモの生長促進が期待できる。また、アマモは種子を拡散させる方法と地下茎を伸ばし分岐を増やす方法で生息範囲を拡大させていくため、それらの両方に良好な効果を及ぼすFFCセラミックスは、アマモ場の拡大に非常に有用である。
アマモ実生苗の光合成活性に対するFFCセラミックスの効果
要約:
アマモに関する別の研究レポート(「FFCセラミックスのアマモ生長への効果検証(水槽実験)」「天草市宮地浦湾でのアマモ育成試験」)で、水槽内でも天然の沿岸域でも、FFCセラミックスの施用によってのアマモの生長が促進されることを報告した。植物の生育が促進される一因として、一般的には光合成活性の向上が考えられる。そこで、本実験では、FFCセラミックスによるアマモの生長促進メカニズムを明らかにするため、FFCセラミックスがアマモ実生の光合成活性に与える影響を調べた。FFCセラミックスを24時間浸漬した補強海水中でのアマモ実生の光合成による酸素放出速度は、無処理の補強海水中でのアマモ実生の酸素放出速度よりも有意に大きかった(1.25倍)。つまり、水槽や沿岸域での実験で見られたFFCセラミックスによるアマモ生長促進の一因は、FFCセラミックスによる光合成活性の向上にあると考察される。
FFCセラミックスのコアマモ生長への効果検証(水槽実験)
要約:
コアマモはアマモ属の海草で、日本では北海道から本州を経て、亜熱帯域の奄美大島・沖縄本島までほぼ全国的に分布している。コアマモには種子による有性繁殖と、分岐による栄養繁殖があり、栄養繁殖は地下茎からの分岐によって繁殖する方法で、春から夏にかけて盛んになる。コアマモ群落は潮間帯の上部から下部にかけて分布し、干潟の維持や干潟から浅場にかけての生物の保全などに重要な役割を果たしている。アマモ同様にコアマモの群落も、沿岸域の埋め立てや水質汚濁により全国各地で減少傾向である。しかしながら、コアマモは、アマモに比べて生態、生理的知見が少なく、再生に向けた取組についても実施例が少ない。そこで、本実験では、FFCセラミックスがコアマモの生長にどのような効果を及ぼすのか、水槽実験により検証した。地下茎先端2節分とその地上部からなるコアマモ苗を、FFCセラミックス20gを入れた水槽(事前に海水4Lと砂1.8Lを添加)に移植し、64日間培養した。FFC水槽のコアマモ苗は、対照区と比較して、地上部の乾燥重量が1.29倍、地下茎の乾燥重量が2.47倍、根の乾燥重量が2.30倍、有意に大きかった。水槽という実際の海域とは異なる閉鎖的な環境で行われた実験ではあるが、FFCセラミックスを水槽内に入れることでコアマモの生育、特に栄養繁殖にとって重要である地下茎や根の生育が顕著に促進された。
天草市宮地浦湾のコアマモ生育エリア調査
要約:
熊本県天草市の宮地浦湾では、かつては湾奥部にコアマモの群落が認められたが、2004年頃にはほとんど確認ができなくなっていた。この湾の環境改善のため、2004年4月にFFCセラミックス18トンとFFC海用改質材1000袋を湾内に施用した。FFCセラミックスについては、先のレポートで報告したとおり、水槽内でのコアマモの生育を促進する効果が認められているため、この湾の潮間帯にもコアマモが増殖することを期待し、2006年以降、高精度のGPSを用いたコアマモ群落の分布域調査を断続的に実施している。その結果、調査開始時に小さかったコアマモ群落は年々拡大し、その総面積は2006年から2018年にかけて約4倍に増加した。一般的にコアマモ群落の再生や保全には多大なコストや労力、知識、スキルを要する。しかし、本調査結果のようなFFC製品の施用によるコアマモ群落の拡大に再現性や不偏性があれば、コアマモ群落造成のための強力な助けになるであろう。